米軍キャンプのチームカテリーナのメンバーに加わって確か3年目だったと思う。我がチームは破竹の勢いで勝ち進み、ファイナルラウンドの2週前では10チーム中、第2位。3位を大きく引き離している。トップとの差は僅か1ポイント。狙うは優勝、そしてできうる限りのチーム賞と個人賞だ。


 10チームが4ラウンド戦う36週、プラス4ポジションマッチで40週間の戦い。昭和46年からが変動相場制だから、当時1j360円だったはずだ。確か1週1人6jのプライズフィーだったと思うので、円換算すると¥2、160。軍の設備であるからかゲーム代はすごく安い。だからプライズを6jも集められるのだ。2、160×5人×10チーム×40週=合計432万のプライズが集まる勘定。ブラインドフィーは当然プライズフィーのみ。しかし楽しいからブラインドはない。優勝、ハイシリーズ(HS)やハイゲーム(HG)、そしてリーグチャンピオン(個人アベレージトップ)やIND−HS(個人ハイシリーズ)とINDーHG(個人ハイゲーム)などそれぞれに配当がつく。HDC−INC(ハンディキャップインクルーズ)もあった。大変な金額であります。


 1ポイント差で2位につけている我がチームカテリーナは、何とか逆転優勝を狙って、ラスト5週前あたりから勝つためのミーティングが続く。対戦相手のメンバーとその投球順位を予測して、我がチームメンバーと共に投球順位を熟考するのである。これがまた楽しい。最終決定はキャプテンの権限だ。キャプテンはチームの責任を担うので、例えばブラインドフィーの未納があればキャプテンが責任を負うし、ビアフレームチャンスで全員ストライクをマークすればキャプテンがビールおごる。飲んだり食ったりの、とにかく楽しいABC(アメリカボウリングコングレス)公認リーグなのだ。毎年9月がシーズンインで、6月がシーズンアウトの10ヶ月間40週の戦いだった。


 この年の第38週目、我がチームカテリーナはトップと1ポイント差の2位に付けていた。チームのアンカーマンであるPBAプロのビル・ホッピーはアベレージトップのリーグチャンピオンとHGとHS手中は堅い。チームHGもその時点で確保。ドキドキわくわくしながら優勝を狙っていたのであります。ところが、ところがであります。次週つまり最終日前の週、キャプテンであるカテリーナ軍曹が、どうしても仕事の関係でその週出場できないとの連絡である。「スペアーメンバー登録は、リーグ期間の1/2終了以前までに完了するものとする」というリーグ規定にのっとり、我がチームは2名の登録を行っていた。その内の1人、わたくしの友人でもある藤原久登という男が急遽スペアーとしてファイナル前の週に投げることとなった。アベレージは170ぐらい。ファイナルウイーク前、つまり第39週目、ここで一気にトップに立てれば優勝をグーと引き寄せることとなる。キャプテン不在のこの週、キャプテン代行はお偉い大佐殿だ。我々がスタート前の練習をしている時、大佐殿と藤原が2人でヒソヒソと何事か打ち合わせている。わたくしは気にもとめずに練習。


ピー!(ホイッスル)。セクレタリーの合図とともに39週目、10チームはいっせいにスタートである。1ゲーム目5フレームあたりだろうか、何かおかしい雰囲気を感じる。藤原がミスの連発なのだ。170AVGは、1ゲームで1ミス平均である。終わってみれば100ちょぼ。無論調子が悪く思い通りにならない時もあるのがボウリングだ。しかし何かが違う。真剣に狙ってのミスと、わざと行うミスとでは、どんなにカモフラージュしても肌で判るものなのかも知れない。わたくしはピーンときた。ダンピングだ。大佐と藤原のスタート前のヒソヒソ話は勝つためのHDCP稼ぎ、つまりダンピングの話だったのだ。2ゲーム目も3ゲーム目も藤原は100チョボで終わった。3ゲーム510ペースの男が、300チョボだった。これだ、HDCPを稼いでラストウイーク一気にトップにたつ計算なのだ。わたくしはドキドキしていた。他チームからクレームは付かないか? バレないのか?


リーグ規定
「複数のチームよりダンピングの疑いのアピールがあった場合は緊急キャプテン会議において採決されるものとする」


試合が終わってすかさずリーグセクレタリーが我々の所にやって来た。「チームカテリーナの藤原はダンピングを行っているのでは、とのアピールが3チームから出された、今から緊急キャプテン会議を行うのでキミたちは待っているように」・・・・我々は無言だった。約1時間弱。セクレタリーが戻ってきて言った。


「結論。藤原の300チョボは明らかにHDCP稼ぎのダンピングだと裁定する。よってチームカテリーナはこれをもって本リーグからボイコット。藤原はキャンプドレイク出入り禁止とする」


狙っていたタイトルを手中にすれば1人約50万円以上になる。昭和36年の話でだ。それが全てパーだ。初めての体験。みんなガックリしていた。藤原は青くなっていたし、大佐殿は口を一の字に結んで無言だ。わたくしはガックリはしたものの、何故かある種の爽やかさを感じていた。我がチームも、どのチームもみんな楽しく投げていた。飲みながら食いながらリーグを楽しんでいた。とにかくフレンドリーだった。キャッシュプライズにギラギラしているところはみじんもない。とにかく楽しかった。チームブラインドも皆無。お金に対する価値観が日本人と明らかに違う。しかし、しかしだ、ひとたび問題が生じるとビシッとルールを当てはめてくる。このメリハリ。大佐であろうが何であろうが、ルールはルールなのだ。全く曖昧なところがないし、プライベートでは全くといっていいほど人間関係に上下がない。ボイコットされたのはガックリだけれど、次のリーグは頑張ろうという気になった。友人藤原はもう出られないけれど・・・・。以後、わたくしのセクレタリー人生に、この出来事は大きく影響を及ぼす。「仲良く楽しく、しかしルールを守って!」この当たり前のことが今できているだろうか?





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すみ光保

すみ光保(すみみつやす)

■1935年東京都生まれ。株式会社スミ代表取締役。1967年にライセンスNo.4第1期生プロボウラーとしてデビューする。ボウリングインストラクターライセンスはマスター。
主な著作は、子供とボウリング(ぎょうせい出版)、ボウリング(ぎょうせい出版)、VJボウリング(日本テレビ出版)、NBCJインストラクターマニュアル、ブランズウィック発行マニュアルなど多数。

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